古来より培ってきた日本の文化。
美しく、深く、今では「Cool Japan 」と呼ばれるように世界中の人々を魅了する力を持っています。
国の独自文化に日本人の持つ繊細さ、奥ゆかしさや、春夏秋冬の素晴らしい四季が織り成す移ろいなどが加わり、日本文化は大変多様性に溢れています。
とりわけ、きものはそんな日本の風土に最も適応した装いとして生まれました。
きものは日本人の美意識や感性を表現したものだけに、日本の文化の象徴と言えるでしょう。
獣の皮をまとった時代から一枚の広い布の中央に穴をあけ頭をつっこんで着た弥生時代、ツーピースになった古墳時代を経て、唐の装いが入ってくる奈良時代。やがて遣唐使が廃止されると徐々に日本独自の和様文化が生まれ始め、平安時代には「十二単」が誕生。
鎌倉~室町~安土桃山時代にはさらなる発展を遂げ、多彩な文様装飾とともに着物の原点である「小袖」が熟成を迎えます。
その呼び方も「呉服」に始まり、「和服」「着物」と時代とともに少しずつ変化を遂げました。
着物の持つ色柄の世界は、様々な模様づけがされ、季節感を感じることができます。
●季節のある柄
植物、風物詩、自然風景などがあり、節分、お雛さま、こいのぼり、桜、風鈴、朝顔、花火、ススキなどがあります。
●季節のない柄
幾何文様、生活財文、人物文様、文字文様、想像上の動植物などがあり、立涌、市松(石畳)、楽器類、童人、鳳凰や宝相花(ほうそうげ)や文字などの文様があります。
着物の絵付けや着色にも多数の技法があり、その中でも有名なのが「友禅染め」という技法です。
1654年、宮崎友禅斎という絵師が作り出した染めの技法は、今では京友禅、加賀友禅などに受け継がれ日本の着物の中心的技法へと発展します。
そして今回、日本の着物の中心地・京都にあって、且つ友禅染めを用いた「京友禅」着物のデザイン・プロデュースを手がける第一人者的企業である「木村染匠株式会社」と大変ありがたいご縁をいただき、おそらく日本で最初のプロジェクト「京友禅の文様を、壁紙にする」をスタートさせます。
あの美しさを、壁紙に・・・。ご期待ください。
まず「京友禅」とは?という基本の「き」の部分からスタート。
木村染匠(株)の木村社長をはじめとした着物のプロ中のプロの方々に「京友禅」の歴史を一からご教授いただく。
江戸時代の絵師・宮崎友禅斎が生み出した技法。その技法で染めたものを「京友禅(友禅染め)」と言う。
例えば白い布にインクをぽたんと垂らすと、じわっとにじんでいく。
色をつけた時、にじまないように周囲に色止め用の糊を周囲のフチに塗っていき、その中に染めたい色をいれていく技法。
だが糊は目に見えない。見えない糊の筆のタッチがそのまま着色のタッチになると言っても過言ではない・・ハンパない難しさ!
そして絵の下書き~完成まで着物の工程は15工程にもなる。
加賀友禅はおもにその工程を一人の職人がすべて進めていくのに対し京友禅はそれぞれの工程を専門の職人に分けた完全分業にしている。
つまり、京友禅のデザイン柄を何か作りたいとなった場合、その文様のデザインや方向性はプロデューサーが決めることとなる。
そのプロデューサーを「染匠(せんしょう)」と呼ぶのだ。
作りたい柄やデザインによって、染匠が最適な職人をチョイスし、一緒に製作を進めていく。
だから柄域や方向性によってチョイスする職人も変えていくのは役者を選ぶ映画作りにも似た世界。
着物(作品)の出来栄えは染匠(監督)が大きく担っているといっても過言ではない。
そして京友禅の世界は文様のデザインも色使いも、幅がとても広い。
トランプ柄やパズル柄、オリンピックの五輪をイメージしたもの等、この懐の広さもまた京友禅の魅力の一つである。
ついに着物の世界と壁紙の世界を融合させるプロジェクトがスタート。
まずは着物の「いま」を徹底的に教わり、製作現場を見させていただく。
技法・文様の基本や着色、配色。業界のお約束。
その文様一つとっても物凄い技術と経験に裏打ちされた職人たちの仕事が凝縮しており、知れば知るほど果てしなく奥が深く、そして美しい京友禅の世界。
果たして本当に自分たちに開発できるのだろうか??不安ばかりが大きくなる・・
壁紙に京友禅の文様を施す。それは着物のように季節ごとに柄を変えられるものではなく、もちろん壁面に長い年月貼られるもの。
季節感はあまり出さないほうが良い。そして「着物の文様」といったとき、皆が思い描くような定番的なものが良い・・。
色々な意見を交換させていただき、木村染匠の方々と共に文様を決定していく。
京都に伺い、来社もいただき、アドバイスを頂きながら色々議論をさせていただき、漸く決定した。
決定した文様デザインのうち、扇柄をベースにしたデザインクロスが木村染匠(株)の発表展示会ブースに使用して頂ける機会を得た。
願っても無い機会ということで、なんとか展示会に間に合わせる。
納期の都合上、塗りの部分がない線画 + モノクロで仕上げたが、展示ブースにも合ってるし格好いいと、とても好評を頂きとりあえずホッとしたと同時に「いけるかも」手応えも得た。
しかしながら線の描き方等、多数のダメ出しもいただく(笑)。
線画で仕上げたベースから着色工程へ。
「ここの花の部分の線が硬いです」「この部分はもっと色を薄くして」「白をもっと入れて」
線はもちろん、細かな部分の色つけまで、まさに着物のプロによる厳しいダメ出しの数々。
こだわったのはデジタルな終始同じ太さの線ではなく、人の手で、筆で描かれたタッチや線質の表現と柔らかな色使い。
指摘箇所を直せば直すほど、どんどん素敵になっていくこの面白さ。やはりプロは違う・・。
色々な部分の修正を繰り返し、ついに完成。実に開発着手から約 9 ヶ月の長い道のりだった。
やはりやってみると一筋縄ではいかない世界だったということを痛感させられた。
そして長い歴史に裏付けられた京友禅の世界は本当に凄腕のプロたちによって繊細に組み上げられた、紛れもない芸術作品だった。
そしてここまで本格的に、プロと共に「壁紙」への落とし込みをした京友禅のプロジェクトは初めてだと思う。
今後も少しずつ、京友禅壁紙の新しい文様をアップしていく予定。ご期待ください。